たいへんお待たせいたしました。先月作品を募集しました短歌コンテストについて、審査結果と審査の様子を発表いたします!最後までお読みいただけますと幸いです。
審査結果はTwitter(@hokutan09)にも投稿しておりますので、よろしければそちらもご覧下さい。
短歌を今よりもポピュラーにするにはどうすればいいだろう。今回の企画はそんな問いから始まりました。様々な方が楽しめつつ、短歌など読んだことがないという人にも魅力を伝えることができれば、と。

コンテストという形式を取った理由には、敬遠されがちな鑑賞に対して作歌の難易度は低いこと、結果として優劣を付けることにはなるけれど、競争を促せば色々な方向性の作品が見られると思ったことが挙げられます。さらに、そうして集めた種々の歌の審査過程を公開すれば単純に読み物として面白くなりそうだし、特に短歌に触れたことが無い方々にとっては鑑賞の契機になると同時に今後の読解の指針になるかもしれないと考えました。したがって、コンテストの第一義の目的は審査員のコメントを交えて応募作を紹介する当ブログを皆様に読んでいただくことであり、順位付けは副産物に過ぎないことをここにことわらせていただきます。
続いて、審査のルールについて説明します。まず、約170首の応募作の中から好きな歌を30首まで選ぶという形で、各審査員に前もって一次選考を行ってもらいました。その後、最低一人に選ばれた歌の内、二次選考として、各自の解釈を交換した上で一人5首まで絞り、選び抜かれた短歌の中から最終選考として一人当たり8首への投票を行って、その得票数に応じて大賞2首、優秀賞3首を定めました。本来ならここで終わる予定だったのですが、受賞作と遜色なく素晴らしい短歌が多くあったため、最終選考での得票数が少なかった歌に加え、好きではあるが二次選考時の数的制限の下で選べなかった歌を各々でいくつか挙げ、再びそれらに対して投票を行うことにより5首の特別賞を設けました。また、一連の審査は短歌の作者名が分からない状態にて行いました。
なお、表記についてですが、短歌は 短歌/提出者筆名 の形で表記しました。
それでは、以下、朝凪布衣、佐々木円香、辻村陽翔、西希、三石路之、東出六花の計6名による審査の様子をお楽しみください。(※三石は当日急遽参加不能になったので、後日投票とコメントを頂きました)。
【西希評】
サイダーを天にかかげて我々はてんさいだー、って主張する夏/あらいぐま
まずはこの歌が好きですね。おやじギャグって基本的に言うと場がしらけちゃうんですけどこの歌はむしろ好印象で、てんさいだーのあっけらかんとした感じ、子供が無邪気に叫んでいそうな雰囲気が良かったです。
金星を物理教師に投げつけてそれが檸檬であったと気づく/あらいぐま
この歌は梶井基次郎の『檸檬』を彷彿とさせる題材で、見た瞬間に引き込まれました。状況自体はよくわからないけれどなんとなくの想像がついて非常に魅力的です。私だったら数学とか物理の先生に投げつけたいな、みたいなある種の共感性もあると思います。
【朝凪布衣評】
木曜日のんちゃんに会う札幌を満喫したいとても楽しみ/玄々
日記をつづっていたらたまたま短歌になったかのような偶然性が好きです。
文化的建築物だ水田に囲まれた花の名のラブホテル/寺村たこ
この歌についてはまず、確かに花の名前付きがちだなっていう共感がありました。あと、お城って堀がありますけど、そういう部分で文化的建造物と水田に囲まれたラブホテルを重ねているのが綺麗ですね。
週末ならラッコも貝の代わりにバイオリン持ってくれると思う/藍色彼等
週末の特別感っていうのがよく表されているように思います。一首に入れるのにちょうどいい情報量です。
【吹風佐梨評】
カップ麺の何万倍も時間をかけていまだ未完成の僕らだ/藍色彼等
「カップ麺」は、用法さえ守れば数分で完成させることができる。しかし、「僕ら」はその「何万倍も時間をかけて」(=生きて)いるのに「未完成」のままです。「僕ら」という人間への皮肉に留まらず、「僕ら」の「完成」とは何かを問う哲学的な歌にも感じられますね。
マスクして七つの感情ひた隠す明日も君の友でいるため/P
現代の情勢と連関があるような感じです。下の句の青春を漂わせるような、ただ嫌われたくないという純粋な一心が突き刺さりました。
生きてたらいつか会えると信じてる祈り続ける言い聞かせてる/寺村たこ
「いつか会える」と「信じてる」から「祈り続ける」「言い聞かせてる」という流れが、可能性のなさや諦めに段々シフトチェンジしつつあることをうかがわせていて、作中主体の心の動きがわかりやすいです。作中主体が保険をかけているようにも感じられ、現代らしさが溢れているように思われます。
好き嫌い分かってるのに
あやめ草
ちぎり続ける「好き」がほしくて/空樹
「分かってるのに」という前置きから、「あやめ草」の「良い便り」という花言葉も合わさり「好き」を求める作中主体の切なさがとても感じられます。
【東出六花評】
しばらくはしていなかった飲み会に向けて心の速度を上げる/武田ひか
コロナ渦の現代においてとても共感できますね、ワクワクした感じが蘇ってきます。
Boys, be ambitious. それをやってくと棺桶に蘭をいれて貰えた/相川弘道
何を言っているかは正直よく分からなかったです。ただ、棺桶に蘭が入っているという情景とその不思議さの噛み合いが素敵で、面白さを感じました。
「午後からはかわいい犬と蟹が降る」パチこきまくる嘘天気予報/とどのつまり
前半の、丁寧なかわいい感じと後半の乱暴さとの落差に笑えました。
【辻村陽翔評】
心臓は春が持ってるはずだから私は私を撃ってしまえる/からすまぁ
下の句の内容的に本来ならば不穏な雰囲気であるべき歌ですが、見ての通り爽やかです。これは春の持つ優しさや結びの潔さの影響だと思いますが、こうした全体の爽快さ、及び冬から春への移行と死から生への循環との呼応がよく響いています。
名月を過ぎてつまらぬ月光をポカリスヱツトに溶かし飲みをり/石川敗北
体験し損ねたのであろう十五夜と飲酒による趣を、現代飲料の旧字表記と文語体で取り返そうとする負け惜しみ感がいいです。
光害もとおくとおくの気の弱い星群にとっては願いと知って/青木灯
生活に仇為す光害がはるか彼方の銀河系の祈りを纏っているかもしれず、また我々が願いを託す夜空の星のほとんどは人間に生存できない環境にあります。神秘的な雰囲気の内に、物事の両義性という一つの本質を内包する優美な歌です。
【三石路之評】
ベランダをときおり選びさらさらと秋の産毛に触れてみる夜/からすまぁ
秋の夜の涼しさや爽やかさを感じさせる「さらさら」が素敵です。
起承転結の転から転職を選んだほうのおれよ、頑張れ/音忘信
コミカルな歌です。上の句のリズムが定型と異なっているのもそれに拍車をかけます。
続いて、二次選考会の様子をご覧ください。二次選考では審査員が各々の評を聞き合った上で、各自が大賞候補を5作選出しました(重複あり)。以下がその結果の一覧と、選者コメントの一部です。

【西希選】
心拍は青い嘆きを押し秘めて社会人版僕のリリース/白糸
社会人版ぼくのリリースという、楽曲の発表になぞらえている部分は自分も使ってみたい表現だなと感じました。大人になっても残る未熟さや若さといった部分を青と表現しているのが的確です。
初デートの私はヤギでカステラの紙は甘くて意外に美味い/内田
ヤギが紙を食べるという共通認識を巧みに利用し、初デートで紙を食べるほどにまで箍が外れてしまうかわいらしさを表現できています。これが一番好きです。
【東出六花選】
夏に行くと決めた本屋は夏前に店をたたんで神話となった/青木灯
神話とは、真偽はもちろん神の実在すらわからずに人間が勝手に語るものですが、もし神がいれば、神には真偽が分かります。この歌も、関係者のみが知る過去として表示されているのがいいです。
【吹風佐梨選】
2222年2月22日のTwitter見てから死にたい/音忘信
Twitterで募集をかけていることもあり、今回の短歌コンテストと合っているように思われます。作中主体の「せめて2222年2月22日までは…」という寿命への抗いや淡い希望が感じられる一首です。
【朝凪布衣選】
きみのどの位置のほくろも知っていて抱き締めるたびくだける獅子座/音忘信
普通に生活していると星座だけど、自分が抱き締めるという行為を加えることで崩れる、ここに自分以外からの侵略不可能性というものが上手く歌われていると思います。
【辻村陽翔選】
あの町の全てを捨てたはずなのにいちばん古い夕陽が見たい/森川のと
まず目につくのは全と一の対比です。全てを捨てたと思った時の残り火が一番古い夕陽であるのは構造的にも納得がいきますし、全体の光景がノスタルジックで素晴らしい歌です。
【三石路之選】
午後に聴くピアノ(ぴあのってひらがなにしたらうそみたい)って君みたい/青木灯
ひらがなが多く、短歌の字面からまどろむような穏やかさと親愛の情を感じます。
以上の候補作の中から、投票によって大賞、優秀賞を定めました。大賞が2首、優秀賞が3首あり、それらの歌ごとに審査員数名のコメントを添えて掲載しようと思います。
大賞
サイダーを天にかかげて我々はてんさいだー、って主張する夏/あらいぐま(5票)
・表現の妥当性・完成度が本当に高くて無駄がない歌。すごいです。(朝凪)
・あえて付け加えることは無いけれど、それは興味が無いのではなくてすごさが見て分かるから。空でなくて天を選ぶ辺りに韻律のセンスの良さが伺えますし、青春・青空・サイダーという王道を外すのもいいと思います。(東出)
・夏の風の爽やかさ、照りつける日差し、眩しい青春を感じます。刹那的で良いです。(三石)
夏に行くと決めた本屋は夏前に店をたたんで神話となった/青木灯(4票)
・神話の唐突さがいい味を出しています。思い出でなく神話を選ぶワードセンスが良いです。(西)
・神話というフィクショナルで聖性を帯びた語を配置することで、夏が完全に記憶と化したという絶対的な不可逆が強調されます。我々が夏に対して感じる哀愁と近しい何かが潜んでいるかもしれません。(辻村)
・「夏に行くと決めた本屋」にはもう行けない。「本屋」を知るには過去の情報や他人の伝聞のみ。そのことを「神話となった」と表現していることがとても上手いと思いました。過剰なまでの神格化への批判を暗示しているともとれます。(吹風)
優秀賞
こんなにも光るクリップ踏ん付けて今日もわたしはパートで生きる/吉村奈美(4票)
・身近なクリップというモチーフとパートで必死に生きている「私」の並列が好ましい。「こんなにも光る」というのも読み手の心情が表れていて良いです。(三石)
・小さいけど光っているクリップを踏みつける<わたし>もまた、もっと大きい場所を目指しつつパートを頑張っているのかなと感じました。(東出)
金星を物理教師に投げつけてそれが檸檬であったと気づく/あらいぐま(3票)
・やはり梶井基次郎の檸檬が思い出されます。高校の国語で習ったから、歌全体から当時の雰囲気を思い出して懐かしくなりました。金星と間違えるという突飛さが全く説明されず、当然かのように扱われているのが素敵です。(東出)
心拍は青い嘆きを押し秘めて社会人版僕のリリース/白糸(3票)
・美しいけど鬱屈とした前半を茶化すような後半部に、頑張らなきゃな、という気持ちになります。(三石)
・これは実は僕の歌だったのですが、自選をしていないにも関わらず選ばれていて嬉しかったです。多分心というものは一貫性が無くて、矛盾する状態それ自体を他でもない自分が愛することが大事なんだと思います。(辻村)
では、特別賞の発表に移ります。特別賞とは、前述の通り最終選考での得票数が少なかった歌に加え、好きではあるが二次選考時の数的制限の下で選べなかった歌の中から5首に与えた賞です。以下が特別賞候補として挙げられた歌の一覧です。

特別賞
ピースをする時に小指が浮いていて愛しい 首吊りしたい/芒川良
・不器用な動作に対して「愛しい」と思うほんわかした雰囲気から一転、「首吊りしたい」というあまりにも物騒な願望が表れており、人間らしさが際立っています。「愛しい」他人を見て自身と比較し、器用に生きられない作中主体が詠まれる。現代の他人との比較が詠まれた歌とも感じられます。(吹風)
文化的建築物だ水田に囲まれた花の名のラブホテル/寺村たこ
・現代短歌は風景と心情を分かち書きで記すことが多いですが、そんな潮流の中ラブホテルの描写だけで完結させている度胸に天晴です。(東出)
起承転結の転から転職を選んだほうのおれよ、頑張れ/音忘信
・字を合わせる、言葉遊びのレベルが高いです。様々な転から転職を選んだ世界線の自分へのエールとなっています。これまでの職場との別れには勇気がいりますが、そこへ踏み切った自分の賛美が力強く好印象に感じました。(西)
初デートの私はヤギでカステラの紙は甘くて意外に美味い/内田
・アルバムや日記を眺めて思い出を見返すような歌。「私」や「意外に」などの自分の視点なのも、生きている感じがして良いと思います。(三石)
半年で飽きられている未来視て発表できずにいるタイムマシン
・未来を見ることが必ずしもいい方向に作用しなかったのでしょうか。予測不可能性を生きることが人間に自由を許しているのかもしれません。(辻村)
最後に、これら受賞作を除いた全ての歌の中から最も各審査員の琴線に触れた歌を掲載して終わりにしたいと思います。
【東出六花】
はなぐわしサークルクラッシャーとなれ チューブの調味料のよりどり/海好行平
花の美しさを表現した枕詞から、「サークルクラッシャー」というパンチの効いた語、そして「チューブの調味料」への語彙の飛躍が独創的な一首。「はなぐわし」は桜にかかる枕詞でもあることから、4月の入学・進級シーズンを想起させます。調味料をひょいと選ぶように次のターゲットを簡単に選んでいくサークルクラッシャーの恐ろしさや、彼女(彼)の前では為す術もない調味料たち、つまりサークルメンバーたちの無力さがややコミカルに伝わります。一度見たら忘れられない、言葉の組み合わせが好きな歌です。
【吹風佐梨】
天罰として花はうまれて占いの灯りに影を落とすのだろう/芒川良
「天罰として花はうまれて」という表現に、原罪のようなものが感じられます。花占いでちぎられるために花はうまれてきたのだろうかと思わせますし、人間の行為に対する問いただしのようにも感じられます。
【三石路之】
ベランダをときおり選びさらさらと秋の産毛に触れてみる夜/からすまぁ
情景や質感まで想像できるさわやかな歌で、好きだなと思いました。詠まれてはいないのに、
月明かりや夜風まで想像してしまいました。涼しいけれど寒いというには早く、湿度の低い(まさにさらさらとした)秋の夜長を感じます。秋の産毛に触れてみるというのも、やわらかい雰囲気のすてきな言葉選びでした。
【西希】
ヒア・カムズ・ザ・サンを返せばそれっきり会えなくなった友だちがいる/音忘信
「ヒア・カムズ・ザ・サン」ってビートルズの曲もありますが、アルバム名とかではないので、多分違う気がします。有川浩の小説にも同名のものがあるみたいですね。私は読んだことがないのですが、手に触れた物に残る記憶が見える特殊能力を持つ青年の物語だそうです。この一首は、「借りていた小説を返したきり会えなくなった」と読みたいです。いまや会うこともなくなってしまったくらいの関係性の友だちだけれど、別れるときに返した本のタイトルまでしっかり覚えているところにリアリティを感じました。
【朝凪布衣】
兄妹のような夫婦宅に行き人生ゲームを三人でする/山
兄妹のような夫婦であるふたりに、他人である主体が混じることで三人になる。兄妹と夫婦、生活と人生ゲームという対比が浮かび上がるけれど、人生ゲームは三人の生活の一部でもあり、その人生ゲームのなかにもまた夫婦や兄妹や他人がいる。ごく自然な視点の切り替えによってミクロとマクロな光景を同時に見せてくれるところが面白い歌です。
【辻村陽翔】
誘導雷 はりさけそうな正しさで(すべてわたしがやりました)見て/青木灯
誘導雷とは、落雷時にその周辺にある電線やアンテナなどに発生する大きな電圧・電流のことで、これにより電子機器などが破壊されることがあるそうです。周囲の犠牲を覚悟の上で特定対象のために正義を執行する身勝手さと、その不合理さを認識しているために対象からの擁護を求めてしまうという、精神のまさに「はりさけそうな」不安定さ。悲痛な「見て」に込められた様々な感情が束になって真っすぐに胸を突き刺し、目を逸らせません。
審査にて話し合う中で、やはり人の感受性は幅が広く、したがって芸術は自由なのだということを改めて実感できました。皆さまも、是非これを機に短歌を読んだり詠んだりしてくだされば幸いです。
これで審査過程と受賞作の発表は以上となります。
まずは、コンテストにご応募下さった皆さま、そしてここまでお読みいただいた皆さま、誠にありがとうございます。また、受賞された方々、おめでとうございます。
今回は初の試みでしたが、沢山の方にご参加いただいたおかげで良いイベントになったかと思います。重ねて感謝申し上げます。
それでは、今後とも北海道大学短歌会をよろしくお願いいたします。